
椎屋光則(しいやみつのり)という漫画家がいる…この名前を知っている人間は、何人いるんだろう?
この業界で最も古い僕の友人の一人だ。彼は主に広告漫画やイラストを描いている…僕より一個下で永井豪先生のダイナミックプロに一、二ヶ月遅れで九州・宮崎から上京してきた田舎者だ。絵もグロテスクと思うほど個性が強かった…。性格も、九州男児にありがちな、いい加減と言うか大雑把(笑)。あまり協調性が無かった為か、ダイナミックも三ヵ月程で辞めた。
東京・新小岩の親戚の家に居候しながら少年キング増刊号でデビューすると、故郷・宮崎に凱旋、地元新聞社を回り記事になった!おまけに、アシスタントを連れて帰って来たのだ。明日がどうなるかも分からない、デビュー作一本でここまで行動を起こした漫画家は、今まで見たことが無い…この頃すでにダイナミックを辞めて、喰うや喰わずの生活をしていた僕は「ただモノでは無い…」と唖然した(汗)。
ところが、アパートも借りて作品に取り込むのかと思いきや、アシと二人でアルバイトの日々…そして、ケンカ別れ…その後、彼は赤塚不二夫先生のフジオプロに入り音信不通になった…。
そんな椎屋と再会したのは前記事で触れたワークハウスの忘年会だった…「T君、久し振り」向こうから声を掛けてきた。風貌は昔のままだったが、フジオプロを辞めて家庭を持ち、絵も、性格も、しっかり丸くなっていた。彼の名前は、時々、「赤塚最後のチーフアシ」として、赤塚作品や関連本に登場している。
…しかし、酒が入ると、昔の彼が見え隠れするのである…僕はそれ酒の肴にするのが楽しみだ(笑)。